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国際革命文庫 13

国際革命文庫編集委員会 訳

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電子化:TAMO2

「マルクス経済学入門」
エルネスト・マンデル 著


     目 次

まえがき

マルクス経済学入門…エルネスト・マンデル

 第一章 価値・剰余価値理論
  (1) 社会的剰余生産物
  (2) 商品・使用価値・交換価値
  (3) 疎外についてのマルクスの理論
  (4) 価値法則
  (5) 商品の交換価値の決定
  (6) 社会的必要労働とは何か?
  (7) 剰余価値の起源と本質
  (8) 労働価値説の有効性

 第二章 資本と資本主義
  (1) 前資本主義社会における資本
  (2) 資本主義的生産様式の起源
  (3) 近代プロレタリアートの起源と定義
  (4) 資本主義経済の根本的メカニズム
  (5) 資本の有機的構成の高度化
  (6) 競争は集中と独占をもたらす
  (7) 平均利潤率の低下傾向
  (8) 資本主義体制の根本的矛盾と周期的過剰生産恐慌

 第三章 新資本主義
  (1) 新資本主義の起源
  (2) 永続的技術革命
  (3) 軍事費の重要性
  (4) 景気後退のなかで恐慌はどのようにして「別の矛盾に転化され」ているか
  (5) 永続的インフレ傾向
  (6) 「経済の計画化」
  (7) 国家による利潤の保障

 (付) のぼりつめた新資本主義とそのかげり…エルネスト・マンデル

 あとがき……(山岡 啓)


まえがき

 本書はエルネスト・マンデルの AN INTRUDUCTION TO MARXIST ECONOMIC THEORY と、L'APOGEE DU NEO-CAPITALISME ET SE LENDEMAINS を訳したものである。前者は一九六三年にフランスの統一社会党パリ連合支部が主催する学習会に使用するためのテキストとしてこの著作を書いた。後者は一九六四年の「レ・タン・モデルヌ」誌(一九六四年八―九月号)のために書いた。
 本書の主論文である前者の成立の事情について若干のべておきたい。
 本書はふたつの制約条件のもとで書かれていることをわれわれはあらかじめ知っておかなければならない。
 第一の制約条件は、政治的なものである。すなわち、当時の第四インターナショナルは全世界的に主要な資本主義国において「加入戦術活動」を展開していた。マンデルも当時はベルギー左派社会党に所属しており、西ヨーロッパの社民的、左翼中間主義的諸党内部にすすめられていた加入活動を通しての既成政治潮流の分解を促進させ、左傾化を導くための理論的指導にあたっていた。本書はマンデルが若い青年活動家むけの学習テキストとして役立つように意図して書きおろしたが、加入活動下での執筆という客観的政治的条件がひとつの制約となって働いていたことは否定できない。本書はマルクス経済学の入門テキストであるから、ここでは革命の戦略などには立ち入って論じられていないが、読者は本書の第三章「新資本主義」の部分で政治的不満を抱くかもしれない。しかし、その内容は本書の成立の事情と本書の執筆の目的から規定されてきている。
 第二の制約条件は、本書が一九六三年に書かれたという時期のうえでの制約である。
 一九六三年は一九五〇年代後半からはじまる世界資本主義の全体としての拡大と成長のブームがまさに進行している最中であり、“資本主義の奇蹟”と“資本主義の永久不変性”の幻想が支配していた時期である。当時、第四インターナショナルが世界革命の展望として把握されていた三つのセクター(先進的帝国主義国における社会主義革命、植民地革命、労働者国家における政治革命)は、アメリカ帝国主義とソ連労働者国家との現状維持的平和共存体制のもとでおさえこまれていた。三つのセクターが公然と顕在化し、新しい世界の階級闘争の段階をつくりあげるのは一九六八年であり、この年ベトナム人民の反米武装解放闘争がテト攻勢によって戦略的勝利の局面をつくりだし、フランスの五月革命は全世界的な青年・学生の急進化と労働者階級の戦闘化を劇的に表現し、チェコスロバキアにおける労働者の反乱は、労働者国家での政治革命の歴史的転機をしるしたのである。
 すなわち、マンデルの本書は一九六八年という世界革命の三つのセクターが公然と歴史に登場し、歴史に転機をもたらす以前の五年も前に書かれたものであり、それは平和共存的世界構造の成立と資本主義経済のブームという客観的条件が本書をとりまいていたのである。
 しかし、以上のふたつの制約的条件にもかかわらず、本書の価値はいささかも減じてはいない。むしろ、一九六三年の時点でマンデルが早くも資本主義経済の戦後のブームの終焉が到来することを予告していたことを第三章の「新資本主義」は教えている。また、当時激しく展開されていた西ヨーロッパ・マルクス主義理論戦線における「構造改革論争」の行く先をマンデルは予言的に本書のなかで触れている。
 マンデルの分析と予測の正しさはその後のかれの著作によっていっそうあきらかとなり、マルクス主義経済の論客のなかで、マンデルの声望はきわめて高まったのである。

 経済学にたいして活動家は敬遠する傾向が強い。経済学を勉強するというのは専門の研究者をめざすという意味にとられやすい。しかし、経済学は革命理論のもっとも根本的な土台である。経済学なしに革命の理論を考えることは、土台なしに家を建てることと同じである。
 この土台をつくることは、それなりに努力が要求される。多くの活動家はマルクスの「資本論」に挑戦するが中途挫折してしまい、それ以後、経済学はむずかしい分野であるという固定観念をつくりあげてしまう。
 マルクス自身は決して「経済学」をつくりあげようと意図したのではなくて、「経済学批判」をすすめたのである。マルクス主義の経済学はブルジョア学問でいうところの経済学ではなく、資本主義というものの生きた分析とその批判を通して、プロレタリア革命を必然とする革命の理論の一分野である。
 本書はこのような意味において資本主義経済を生き生きと分析して、われわれの理論を実践に結びつけようとすることを志向しており、日本における不毛でひからびた「訓詁的」な経済学とはことなって、やさしく、かつ理論的に明確に展開された入門書である。
 本書は次の三つの章に分けられている。
  第一章、価値・剰余価値理論
  第二章、資本と資本主義
  第三章、新資本主義
 第一章は「資本論」のはじめのところに該当するが、マルクスが「商品」から説きおこしたのにたいして、マンデルは労働生産性が上昇して剰余生産物が発生する過程を歴史的に整理しつつ、資本主義の成立と、ブルジョアジーによる搾取をあきらかにしている。われわれはここで労働者階級がいかに搾取されているか、というカラクリをつかみとることができる。
 第二章は資本の運動の過程を分析している。資本の運動はとりもなおさず資本蓄積の過程であり、われわれはこの章で、資本主義の発達が独占と集中に必然的にむかうことを知ることができる。
 第三章はもっともマンデル的な特色の強いところである。マンデルは第二次大戦後一九五〇年代後半から七〇年にかけて持続した資本主義のブームの謎を分析している。そしてこのブームが必ずや終局をむかえるであろうことを六三年のときにいいあてていることは先に触れた通りである。
 新資本主義は国家権力の経済への介入と干渉によって特徴づけられ、それは具体的には軍事支出と社会保障支出として把握される。そして新資本主義は不断の技術革新と不断のインフレを推進力としているとマンデルは指摘している。この章においてわれわれは現在の世界資本主義経済を分析する方法論、その枠組を知ることができるのである。
 本書はしたがって小冊子ながら、資本主義経済を分析するための基本的概念をときあかし、かつ資本の蓄積過程を分析し、そのうえで現代の新資本主義の分析にまでおよんでいるのであり、内容上は欲張っているといえよう。そのためマンデルが充分に展開できなかったところもあるであろう。したがって、読者は本書からさらにマンデルの次の著作にすすむべきであろう。

 「現代マルクス経済学T・U・V・W」 東洋経済新報社
 「現代資本主義の抗争」        東洋経済新報社
 「カール・マルクス」         河出書房新社
 「ドルの没落」            柘植書房
 「世界経済分析 危機の性格と革命的左翼の展望」拓槍書房


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