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六、日本帝国主義の海外侵略に対応した朴の重化学工業化計画

 このように、朴のいくつかの五ヵ年計画による工業化の過程がつくり出したものは、韓国経済の中に帝国主義の「租界」をつくり、それがまるでガンの細胞のように、「国民経済」を侵蝕していく経済構造にほかならなかった。朴の第三次五ヵ年計画と七三年に打ち出された「長期経済開発計画」の中味は、日韓経済の一体化――日本帝国主義による韓国経済の「併合」であり、植民地的下請化の完成――をますます浮彫りにしている。
 とくに一九八〇年を目標にした極端な重化学工業化を軸とする「長期開発計画」は、これまでにつくり出された工業化の延長でさえなく、さらに飛躍した規模と構造をもつ重化学工業化のプランである。したがってそれだけさらに飛躍した移殖工業の推進プランでもある。つまり、この計画は韓国経済の現実的基礎のうえに立っているのではなく、日本帝国主義の膨張の規模とテンポに対応しているのである。
 「一九八〇年代初頭に一人当りGNP一〇〇〇ドル(七二年三〇二ドル)、輸出一〇〇億ドル(七二年三二億ドル)を実現させる」という目標で、七三〜八一年に総投資四〇〇億ドルを投じる予定のこの計画の核心的部分は、「工業投資九〇億ドルで六〇億ドルまでが重化学工業にふりむけられる」という部分にあるとみてよい。これによって重化学工業化比率四五・八%、輸出における重化学製品の比重、七一年の一九・一%から六〇・五%へ大巾に増大するという。
 ところがこの重化学工業にふりむけられる六〇億ドルのうち五〇億ドルを外資に依存する計画で、しかもその大部分を日本から調達しようとしている。
 これは奇妙なほど「日本産業の国際的発展」の方向と対応している。『産業構造審議会』の報告や通産省の『青写真』では、いずれも「鉄鋼・石油化学・アルミ・紙パなどのエネルギー多消費型産業の海外立地を促進」することが強調されている。その見通しによると、立地難等の制約から、国内需要を満すためだけでも「八五年には鉄鋼二八〇〇万トン、エチレン六三万トンを海外から輸入することになる」という。
 朴の「長期計画」によると、鉄鋼ではすでに建設中の浦項総合鉄鋼基地とならんで洛東江河口の第二鉄鋼基地が、粗鋼年産五〇〇万トン、最終約一〇〇〇万トンを子定。麗水・光陽の総合化学基地では、エチレン年産三〇万トン規模を二系列で建設し、合計六〇万トンを予定している。(もちろん日本の場合、鉄鋼にしろエチレンにしろ、今後の世界的需要逼迫のなかで、東南アジア諸国を生産根拠にした世界市場への輸出増大を充分考慮に入れて、鉄鋼、石油化学、非鉄金属、紙・パルプなどのさらに大規模な進出計画をもっている。)
 つまり朴の「長期開発計画」は、韓国における大巾な貿易赤字(七二年で八億九八〇〇万ドル)、少ない外貨保有高と、七五年分の元利償還額が六億五〇〇〇万ドル(七六年終了予定の第三次五ヵ年計画に必要な外資は総額四六億ドルとされているのに、すでに七三年八月末現在で外資導入総額五五億ドル!)という厳しい現実的基礎の上に置いてみるとき、それは非常に「ずさん」で「遠大」な計画にみえるが、日本帝国主義の海外進出の規模とテンポに合せてみるとき、実に「ほどよい」ものになっているのがわかる。
 これは明らかに、資源問題の深刻化、インフレによる生産コストの上昇、公害にともなう立地難などから海外投資を大々的にすすめていかなければならない日本ブルジョアジーの計画だといったほうがよい。
 日本の財界から韓国にむけた調査団の報告も「日・韓両国の一体的経済連首」を強調している。また「この計画自身日本の企業がつくっており、その系列の財閥が動き出している」という指摘もある。
 実際、この「長期計画」のエチレン三〇万トン系列のコンビナート計画に対して、三井グループ(三井油化中心)は、年産三五方トンをめざし、六億八〇〇〇万ドルの投資を計画し、三菱グループは三〇万トン、四億五〇〇〇万ドル投資を計画している。温山の非鉄金属基地に対しても、伊藤忠商事、古河電工、古河工業グループが韓国の大韓電線と組んで銅精練に乗り出そうと計画している。巨済島の造船基地でも、川崎重工が韓国の現代造船所と組んで計画をすすめている。
 朴の「長期開発計画」は、このような形で日本資本のイニシアによって具体化されつつあるのだ。もちろん他方ではこの「重化学工業化計画」が朴の「韓国軍近代化」の基礎として重要な位置を占めていることを見逃してはならないだろう。
 いずれにせよ、この朴の工業化の飛躍的推進は、韓国労農人民の「民生」経済をますます停滞に追いこみ、破壊していくだけである。韓国における税制・金融上の全体系と財政構造は、全面的にこの「重化学工業化」にむけて編成される。たとえば七四年度の韓国予算をみても、@重化学工業の開発促進のための集中的支援、A社会間接資本の拡充、B輸出伸長と観光事業の振興等、完全な開発優先型予算として編成されている。重化学関係の項目のなかには浦項総合製鉄所第二期拡張費、温山非鉄金属団地、等々の項目が並んでいる。そしてこれら重化学工業に対する投融資は、三三五億ウオンで一挙に七三年度の十倍近くに脹れあがっているのである。
 これを保障するために「国民消費生活を節約することを強く奨励」し、「税収増大をはかって国家財政を強化する」のである。
 韓国における国家は、まさしく、米・日帝国主義のために、韓国労・農人民を搾る政治組織としての役割りのみを果しているといってよい。

七、韓国経済の危機と労働者人民の闘い

 かくして朴の「工業化」の総決算は、名目的な成長率の高さや、輸出の「驚威的な」増進にもかかわらず、韓国経済の植民地化を完成したにすぎなかった。たしかに、名目的な経済指標でみるかぎり、年率一一%(六九年は山五%以上)を上回るGNP成長率は、高度成長下の日本をしのぐものであるし、製造業比率も六〇年の一二%から七三年には三〇%近い「工業化」を達成した。そして七二年の一六億二四〇〇万ドルから七三年三二億二五〇〇万ドルへ、まさしく鷲威的な伸びを示している。
 しかしそれにもかかわらず、朴政権成立以来七三年までの貿易赤字総額は八五億ドルに達し、さらに同じ期間に導入された外貨は五六億六〇〇〇万ドルにのぼっている。この総計は七三年の国民総生産一二五億ドルを上回る外貨保有高は七三年末までわずか一一億ドル弱であるから、結局、韓国経済は外国資本と赤字で埋まっているといってもけっして言いすぎではない。国民総生産に対する輸出入依存度が一九六〇年には一六・七%であったのが、六六年には三二・四%、七〇年には四二・九%、七三年には六七・一%にも達しているという事実が、もう一つの面からそのことを裏書きしているといえよう。そのうえ食糧の輸入が年々増加し、食糧需要の三〇%の輸入代金が巨大な額にのぼっていることはすでにみたとうりである。この結果、すでにみたように、韓国の「民生」経済は根底から破壊され極度に疲弊させられてきたのであった。
 かくして、朴の工業化の過程で急速な膨脹をとげてきたのは帝国主義の「租界」であり、そこにおける「工業化」と、そこを拠点とした輸出の急増であったことが明白である。
 このようにみてくると、軍部と国家官僚の上層部と十数家族の買弁資本とのアメーバー的癒着によってつくられた韓国の支配層は、韓国の社会総体に対して全くの外在的位置しか占めていないし、帝国主義の利害を代表する植民地総督的位置しか占めていないといえる。
 ただちがいは、形式上の「政治的独立」を保っているという点だけである。(米軍の駐留とCIA政治の存在はそれさえ見せかけだけのものにしているが)だが朴政権は、その形式的な「独立」にもかかわらず、国内において自らが依拠すべき独自の階級的基盤をもっていない。それはアメリカ帝国主義によって、朝鮮半島の南半部を人為的にもぎとられ、上からデッチあげられた「韓国」という国家の成立過程に最大の根拠をもっている。そして、朴の工業化そのものが、その根拠を再生産してきたのであった。
 また中途半端に終ったとはいえ、戦後の土地改革は朴政権を支えるような強固な地主階級を残さなかったし、「五カ年計画」期間中の農業の停滞は、農村における弱体な朴の基盤をも解体していったのである。むしろ今日の「セマウル運動」の過程で、政権と癒着した高利貸的“財閥”の手をとうして、新興寄生地主の層を生み出しているといわれている。だがそれは、農村に新たな階級闘争の基盤を持ちこむことにしかならないし、圧倒的多くの農民はこの「セマウル運動」をとうして、直接に朴政権そのものとの対決に向わせるだろう。
 他方で、すでにみた「民生」経済の破壊と労働者階級の低賃金は、四百万をこえる労働者階級に、改良のためのいかなる幻想の余地もマヌーバーも与えることができなかったことを示している。したがって労働組合の全国組織(大韓労総)は、戦前の日本の翼賛会と同じように、国家と深く癒着して労働者を抑圧・統制するための国家機構の一部という位置しかもっていない。「韓国の労働組合の多くは御用化している。労働組合と政府と企業主、特にCIAは一体になっている。反対派はすぐにアカだといって逮補される」(注J)のである。
 かくして朴政権は、六〇万の軍隊と警察機構、KCIAを軸とする官僚によって支えられているだけである。社会から独立した国家の暴力によってのみ支配が維持されているという意味では典型的なボナパルチスト的政府である。
 経済的には、韓国における“財閥”以上に日米帝国主義の、最近では著しく日本の大資本とその出島的構造に、依拠しているといってよい。しかも圧倒的な外資導入によってつくりあげられたその構造は、韓国経済の自立を準備してはいないのであって、ますます外国資本の下請的位置を強めてきたのであった。七三年に提出された「長期経済開発計画」も、一面では「外資導入のためのプランづくり」であるとさえいわれているほどである。
 かくして朴政権の植民地総督的位置と寄生的性格、そこから必然的に生ずる腐敗の傾向は、ますます露骨になっていかざるをえない。またそれに伴って、暴力的支配はより一層強化されてきた。
 かくして三菱・三井を先頭とする日本の大資本と日本政府、朴政権と買弁資本、この四つどもえの癒着構造は、結局戦前の「日韓併合」下の利害集団の構造と本質的に全く同じものであるといってよい。
 六九年の日米共同声明の路線にそって行われた七〇年の第四回日韓定期閣僚会議で韓国は、農業近代化・中小企業育成等のための新規借款一億ドルと重工業化のための借款五九〇〇万ドルを要請した。だが「この一億ドルは、その使途が不明な『つかみ金』的性格の強いもので、日本にとってはまったくの臨時支出だった」といわれている。しかもこの一億ドルのほぼ半分四九五〇万ドルは、七一年五月(四月に大統領選挙、朴三選)に富士、勧銀、興銀、三菱など七つの銀行によって提供されている!
 またすでにみてきたように、韓国の企業にとっては借款を導入できるかどうかによってすべてが決まる。というより借款を自由にできる層が「企業」をつくりあげてきたし、「経済」を支配してきたのであるが、「大きな借款は朴の五人の側近(大統領秘書室長、中央情報部長、民主共和党財務委員長、経済企画院長、財務部長官)の許可が不可決」というのが、韓国経済人の常識だという。そして彼らが借款の配分をチェックする段階で、その何割かが政治献金として消えていくという。この下にもろもろの官僚がつながり、企業集団の網が絡み、その各段階で借款額の八―一〇%がリベートとして消えていくという。このリベートの負担が大きすぎて「不実化」した企業の例は数多くあげられている。韓国アルミの場合、昭和電工とトーメンからの借款一三四八万ドルのうち、実際にプラント代に支払われたのは七五六万ドルで残りの五九二万ドルは行方不明となり、国会で追求されたという。(注K)
 だがこうして企業が「不実化」しても、日本の企業や商社は輸銀によって一括してプラント代金の支払いを受けているから損はないし、輸銀もまた韓国政府が肩代りして元利金を返済するので全く「安心」していられるのである。韓国政府の元利金返済のための資金が足りなければ、あらたに借款して支払うことになる。結局、最終的な負担は韓国労働者人民にしわ寄せされる。
 このようなカラクリのなかで、三菱等の投資が借款は国家的規模のプロジェクトがほとんどである。「だから三菱は、個々の企業と結びつくというより、韓国全体、朴政権そのものにコミットしているということになる。三井や三菱を先頭とする日本の大資本が「重化学上業化計画」をつくり、資本を提供し、原料・資材を輸出して、「保税加工」された製品を買い取っているのである。
 こうして、貿易依存度六七・一%という数字に示されるように、帝国主義によって大きく絡めとられ、世界経済への依存度や異常なまでに脹れ上ったところで、資本主義経済総体の停滞局面とぶつかったのである。オイル・ショソクは、韓国の国際収為を大きく圧迫し、諸物価の相つぐ大小値上げをもたらした。すでに七三年三月に、人材の三○%値上げを先頭に、鉄筋三五%、飼料二八%等を値上げし、七月に、さらに鉄筋四〇%、飼料一三・四%、八月に紙類三八%、石油類一三%、人絹糸二三%の値上げを強行していた。そして「石油危機」以後の十一月に(十二・四告示)石油類三〇%、配合飼料二五・五%、澱粉四二%、ナイロン糸三二%、板ガラス二五・五%、牛乳一五%、粉乳一一%、砂糖一七%、肥料三〇%という値上げがつづいた。さらに七四年の二月には、公共料金が相ついで値上げされた。
 「石油危機はほんとうに深刻である。冷い部屋にたまりかねている。煉炭も買いにくい。それで主婦たちがデモをしたこともある。汽車やバスが連行を停止したこともあれば、輸出産業でない中小企業は止っている状態だ」(『世界』七四・二月号・「韓国からの通信」より)といわれている。
 そしてなによりも、輸出入市場の七一%をそこに依存する日・米両国の不況の深化は、ストレートに、韓国経済の基軸であった輸出の急速な停滞となってはね返っている。
 しかも世界的インフレのつづくなかで、輸入の大部分を占める鉄鋼や機械、石油製品等の基礎資材は大巾に値上りしているのに、繊維品や雑貨等の、韓国の輸出をになっている品目は、急速な値崩れを生じているのである。
 韓国経済、とくにその中心をなす繊維や合板、雑貨、電子部品等々の産業部門では、突然の生産削減と人員整理の波がひろがっている。今年の七、八月だけで韓国に輸出しているアメリカ、日本系電子企業一五企業だけで四千人以上の従業員の首切りが強行された。三月末現在で、都市部では十一人に一人は失業状態であったというなかで、八月以降、事態はさらに深刻になっており、繊維その他の企業を含めると首切りは厖大な数にのぼってきていることが予測される。「今年に入ってから一部の大企業でも二〇〜三〇%も稼動率を下げる事態に陥っており、……七、八月から繊維産業は一〜三ヵ月の休業状態に入っており、無制限の休業に入っているところもある」という。
 このようななかで労働者階級の闘争、とくに外資系企業の労働者の闘争が激発しはじめている。朴の軍事独裁がますます野蛮にその暴力をふるい、武装警官とKCIA、韓国労総の「憲兵」どもが、四、六時中監視と警戒の目を走らせ、弾圧を強化しているなかで、闘争は確実に激化し拡大している。今年一〜八月まで、馬山など主要工業団地に入っている日本人投資企業一六五社を調査しただけで、そのすべてで「不隠な動きが認められ」、そのうち四六件が公然と「賃上げ」や「解雇撤回要求」を掲げて闘争に立ち上っている。その代表的なものは、「九月十六日、馬山輸出自由地域の日系企業『北菱K会社』の従業員一四〇〇人余がボーナス交渉をめぐって一斉に就業拒否、このため工場の原料である魚類が腐敗して、二十一日まで操短に追いこまれた」という例。さらにすでによく知れわたった蔚山の現代造船所の約二千人の従業員による大規模な騒動が起ったのであった。
 こうして、労働組合の組織が禁じられているなかで、「日本企業の工業団地では地下労働組合を組織しようとした」り、御用組合を打ち破って闘いがすすめられている。「たとえば韓国毛紡(従業員、男三〇〇名、女一二〇〇名)のようなところでは御用組合の支部長が追われた。そうなると新しい支部長にたいする弾圧は暴力沙汰に発展するこういった状況でも労働者の戦いはつづいている」(注L)という。
 七四年一月中旬から四月末までに新たに労組を結成した労働者の数が、七〇〜七三年までの四年間に労組を結成し、これに網羅された労働者の数とほとんど等しい五万余人になるという。
 このようにして労働者階級の闘争とくに外資系企業の労働者の闘争が、今年に入ってから急速に拡大し、激化し、頻発してきている。七一年段階で、外資系企業に働く労働者の数は三七五企業約五万五〇〇〇人で、十人以上を雇用する事業所に働く労働者一二〇人の約五%であった。現在まで日本系企業だけで六〇〇をこえているから、その労働者数はさらに増加し、十万をはるかに上回っているだろう。しかも外資系企業の場合、相対的に大規模企業が多く、さらに工業団地を中心に地域的にも労働力群の集中を促進し、客観的な反乱の基礎を拠点的につくりあげてきているといえないだろうか?そのうえ厳しい――しばしば暴力沙汰をともなう――監視と警戒と弾圧の網がはりめぐらされているなかでは、闘いは、「暴動」の形をとって一挙に噴き出す以外にない構造のなかに置かれているのである。
 かくして、朴の「五ヵ年計画」と工業化の過程は「四・一九革命」の段階にくらべてはるかに多くの矛盾を蓄積しているとともに巨大な「反乱群」をもつくり出してきたのである。「四・一九革命」において学生を先頭に韓国の労働者人民を動員し、闘争にかりたてたものは「南北統一の要求」と「李承晩打倒」を軸とした経済的要求と民主的要求であった。今日、「反日」のスローガンと闘争課題は、より広範な労働者人民を闘争にかりたてるだけでなく、闘争そのものに、問題のより根本的な解決に向けた方向性と永続的性格をつけ加えるだろう。とくに、外資系企業の労働者の闘争が、来るべき「朝鮮戦争」の主力となる度合に応じて、「革命」が闘いとらなければならない課題とその国際的性格が、より鮮明に大衆の前に提起されるだろう。
 しかもすでにわれわれがみてきたような、韓国経済の構造的特徴と、朴政権の位置と性格からしても、「反日」は朴のスローガンたりえない。米・日・韓反革命体制の一翼をになう朴を先頭とする韓国の支配層にとって、「反日」はどのような意味でも、自分自身の基盤との衝突へ導く。
 なるほど日・韓の親書外交をめぐる折衝が始まるまえ、朴による官製の「反日」デモが組織された。だがそこに動員されたのは、在郷軍人会、反共連盟、韓国労総、中・高校生などの反共組織と国家の強権による大衆動員の可能な範囲に限られてた。だがその官製の「反日」デモでさえ、韓国労総翼下の労働者が広範に、大衆的に動員されはじめ、「企業を侵す日本資本の追い出し」、「労働者の生活を歪める日本企業の進出」といった、日本企業の進出を弾劾するスローガンが出はじめて、デモが日航や三菱・富士などの銀行支店に向いはじめたとたんに、運動は上から中止させられていったのである。もしそのまま労働者や学生が動員されつづけていったら、それはまちがいなく、朴にとって極めて危険な爆弾の導火線を切り縮めていくことにしかならなかったろう。このような事態の推移と合せて考えるとき、この間の朴の日本に対する強硬姿勢は、朴の工業化と高度成長の内実が、米・日帝国主義との緊密な利害関係をつくりあげてきた反面、韓国労働者人民とのあいだに深刻な敵対関係をつくりあげてしまったことを示していたのであって、けっしてその逆ではない。一見逆説的にみえるとしても、朴の対日強硬姿勢は、日本帝国主義自身の利害を代弁し、強調していたにすぎないのである。朴が強調したのは《韓国における米・日帝国主義の権益を防衛するためには、軍事体制の貫徹しかないこと。どのような形にしろ、韓国内の「民主主義」は大衆反乱の拠点を与えるものでしかないこと。そればかりか、日本国内の「民主主義」でさえ、韓国労働者人民に反乱の拠点を与える結果になっていること。したがって日本のブルジョアジーと政府は、韓国における自己の権益を防衛したければ、日本国内において、韓国労働者人民の反乱の拠点となっている「民主主義」を弾圧せよ》ということであった。
 だが朴はそのことによって次のような事実をも語っているのである。すなわち、韓国の労働者人民は朴の軍事独裁下において、武装した国家権力そのものと直接に対時しているのだということ――を。
 同時にまた次のことも――すなわち、韓国経済は、その内部に「民主主義」を支えるような余裕も、さらに北半部からの中断された枠内において「自立した経済」を樹立しうる基盤もそれをになう層も形成してはいないということ――を。
 そしてなによりも、韓国内部における学生を先頭とした闘争の高揚が、すでに一元化されてしまっている日本帝国主義の政治危機につながっていること。つまり、韓国の労働者人民の闘争によって危機にさらされているのは、ひとり朴体制のみではなく、米・日・韓反革命体制そのものであることを最も弱い環をになって下る朴が、それだけ一層ヒステリックに叫びたてていたのである。
 結局、韓国は第一章でみたとおり、朝鮮戦争の結果北半部との「社会主義的」統一の道を閉ざされたのであり、歴史的・地理的構造から不自然にもぎとられて資本の師に縛りつけられ、帝国主義支配のための軍事基地機能をになわされたのであった。
 ただでさえ、戦前における植民地経済の歪みを残していた朝鮮半島の、切りとられた南半部において資本主義的基礎の上につくりあげられる経済は、不可避的に帝国主義の支配の網にからめとられるしかなかったのである。
 韓国経済が名目的にせよ「高度成長」をとげていったのは、日本帝国主義の資本進出と結合して以降であり、「併合」のすすむ過程においてであった。
 かくして、この没落する帝国主義の時代にあって、韓国労働者人民の経済的解放の方向は、切りとられた南半部の枠内における「自立した経済の樹立」ではありえないことは明白である。
 闘争そのものがすでに、米・日・韓反革命体制そのものと直接に対嶋しており、韓国経済が日本経済と構造的に一体化されている歴史的状況のもとで、韓国労働者人民の闘いは、韓国内部の日本資本を強奪するだけでなく、日本プロレタリアートとともに、日本帝国主義の工業力総体を強奪しなければならない。とくに六〇万の在日同胞が日本帝国主義の搾取と収奪のもとで呻吟させられているとしたら、日・韓両国間の労働者階級の統一した闘いによる、日本帝国主義の打倒こそが真の勝利への道であることは明白である。
 かくして、韓国と日本の労働者人民の任務は、南北朝鱒の統一を基礎として、日・韓の社会主義的合同計画経済の樹立をかちとるために闘いぬくことである。(それはさらに、ソ連のシベリア開発、チュメニ油田開発や中国の工業化とも結びつけて展望されなければならないだろう。)
 たしかに、韓国労働者人民の闘いの中に、自然発生的には不可避的に生れてくる「経済的自立」の意識は、「反日」の意識と結びつき、さらには「南北統一」の意識の基礎となって、極めて積極的な役割りを果すだろう。
 日本の労働者階級は、その水準から出発する韓国労働者人民の闘いを、無条件に防衛するところからしか真の連帯をかちとることはできないだろう。だがそれにもかかわらず、この「経済的自立」の意識は自然発生的な意識であり、乗り越えられなければならないものである。南北統一革命を基盤とする社会主義的合同計画経済の樹立にむけた永久革命の綱領だけが、韓国における労働者階級の闘いの拡がりとイニシアチブの発揮、さらに日・朝労働者階級の強固な統一を促進するだろう。
 反日・反朴闘争連帯!
 朴軍事独裁政権打倒!
 米・日・韓反革命体制打倒!
 南北朝鮮の統一と日・朝の社会主義的合同計画経済の樹立へ!

注@ 韓国経済の奇蹟 原覚天著 国際問題新書脇(以下「奇蹟」とする)一三頁。
 A 「朝鮮の政治社会」 グレゾリー・ヘンダーソン著 サイマル出版 三五三〜三五五頁。
 B 雑誌「世界」 七四年十月号 「危機深まる韓国経済」 隅谷三喜男。
 C 「金大中事件と日本」 中川信夫著 田畑書店 一二八頁。
 D 「奇蹟」 上掲 一三四頁。
 E 同上 一五一頁。
 F 通信「韓国経済動向」 七四年。
 GH 雑誌「統一評論」 ?10
 I 同上。
 J 「韓国からの通信」 岩波新書 一二三頁。
 K 朝日ジャーナル 七三年九月一四日号 「対韓援助の暗い側面」より

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