社会批評社『サイバーアクション』 戸田氏により電子化された文書から再構成

補章:若い世代と「2ちゃんねる」でのコミュニケーション

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石原とトンデモ議員と草の根ファシズム?

 これから展開する話は石原発言に抗議する地方議員と、そこから派生した問題に怒ったネットワーカーたちの攻防と、さらにその議員を防衛しようとするあまり自爆した別の市民派議員らによるインターネット上で巻き起こった物語である。
 「反石原」陣営に属している者として少々気の重い作業であるが、問題は問題としてキチンとした検証が必要であると割りきり、筆を進めることとしたい。

 東京都知事・石原慎太郎が2000年4月9日、陸上自衛隊練馬駐屯地の「創立記念式典」で「不法に入国した三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返しており、大きな災害では騒擾事件すら想定される。警察の力に限りがあるので、皆さんに出動していただき、治安の維持も大きな目的として遂行してほしい」と語った。
 いわゆる「三国人」発言である。
 あからさまに「外国人」を犯罪者と見立て、災害時に「騒擾」を起こす可能性を示唆し、治安出動を当然のことと語った。この差別排外主義を煽る石原に対し、支持は上昇した。

 首相森の「神の国」発言への民衆の抵抗感と石原への支持の乖離はなんなのか?
 石原は不況とグローバリズムによる日本経済の悪化と移住外国人労働者の増大による民衆の不安を読んでいる。彼は日本民衆を全面に出し「外国人」をその対極に位置付け、日本人を防衛するとの考えを示した。計算した排外主義であり、ナショナリズムをあえて煽ったわけである。まさにファシストと呼んでおかしくない。
 一方森の場合はどうか?民衆に対置するものが「神の国」だ。単なるアナクロニズムである。森も何も考えていないようだ。さすが支持が少なかった。

若竹議員の怒りと新しい文化の衝突

石原発言を聞いた東京・小金井市議若竹りょうこさんは、自らのサイト上で意義申し立てをした。「石原都知事の暴言に抗議します!」とのページを開設。石原への抗議電話、FAX、メールを送ることを呼びかけたのだ。また彼女の連れ合いはドイツ人だそうである。怒るのも当然だ。
 もちろん運動圏では抗議電話、FAXなど当たり前のことである。首長・行政権力に怒りをぶつけるのはなんらおかしなことではない。しかしインターネットとなると少し違う。
 確かに石原発言後「石原は自分でメールを読んでいるから送った方がいい」という声も聞いた。しかしネット上では、同一内容の組織的大規模メールは、スパム(いやがらせ、迷惑メール)として非難されることが多いのである。旧来の運動と新しい文化の衝突であった。

 実はその時点で大変なことが起こっていた。『2ちゃんねる』という巨大掲示板群の「都知事・府知事」掲示板(すでに閉鎖)に4月17日に、たてられたスレッド「○○反石原派・若竹りょうこ市議のHP○○」だ。そして若竹さんのホームページの書き込みが転載された。
『2ちゃんねる』(http://www.2ch.net/)
『若竹りょうこの湧く湧くだより』(http://www.asahi-net.or.jp/~ep4r-wktk/index.htm)

「レイプ」書き込み!

 何人かが若竹さんの「ようこそわくわく掲示板」に押し寄せた。掲示板では「抗議メールはスパム(嫌がらせ)ではないか?」「抗議メールは自分で集約すればいいのではないか?」などの意見が出された。しかし彼女は多くを荒らしと認定し削除しまくった。
 「丁寧な言葉づかいでも2ちゃんねるの悪意が背景にある」と断定してしまったのだ。
 そして、さらになんと若竹さん本人が『2ちゃんねる』に登場した。「2ちゃん」で攻撃されている本人が出ていくのは一つの手である。しかし、よほどネットでの敵対者のさばき方のスキルがなければ、ただ攻撃されるだけである。彼女はそれを分かっていなかった。自ら「高圧的」ともいえる態度で煽ってしまったのである。

 これにさらに怒ったのが「2ちゃんねらー」たちであった。彼女の態度は反石原までも敵にまわしてしまった。「もはや親石原、反石原のたたかいじゃない」との『2ちゃんねる』での書き込みも見られた。
 しかし、さすがにうんざりしたのであろう。若竹さんは「石原論争の打ち切り」を発した。
 しかし逆にこれで若竹さんへの怒りは頂点に達し『2ちゃんねる』に若竹さん非難のスレッドがどんどんたちあがる事態になった。しかしそこに「輪姦してえ」なる女性差別発言が書き込まれることとなったのである。

 それが「朝日新聞」(2000年4月20日)にとりあげられた。そして彼女は『2ちゃんねる』での差別書き込みの削除を要請した。しかしそれは、スレッド内のすべての発言を「削除せよ」とも受け取られる内容であった。これは一つの掲示板を閉鎖しろ、といっているのと同じレベルの要求なのだ。
 何回かのやりとりのあと、ようやく若竹さんが問題の書き込みを特定し、それは削除された。若竹さんの『2ちゃんねる』での最後の書き込みは「アングラサイトや、すべてをくくって悪者のように表現してしまったことは反省し、ここにお詫びします」である。

 しかし実は、その一方でこのような書き込みとは逆に、彼女が市民派議員の政策集団である「虹と緑」のメーリングリストにあるメールを流していたのが発覚していたのである。それは朝日新聞の取材の報告であったが「2ちゃんねらー」への敵意・憎悪むきだしのものだったのだ。
 この『2ちゃんねる』での書き込みと、「虹と緑」の議員仲間に対するメールの「2ちゃんねらー」評価へのダブルスタンダードについて、多くのネットワーカーはがく然とした。もはや若竹さんは、ネット上で全く信頼をなくしていたのである。『2ちゃんねる』で若竹さんスレッドでは、膨大な量の批判が書き込まれていくという事態になっていった。

 若竹さんは心身ともに傷ついた。8月の時点でもいやがらせ電話が集中していたというのだ・・・・・。がまんする必要はなかったのだ。有効な手段を講じるべきではなかったかと思う。
 結果酒をのみ厚生文教委員会を無断遅刻し、委員長を辞任した。ずっと後に彼女が明らかにしたところ、それがネットによる攻撃のためだというのだ。さすがに心中察するに余りある。最近ではネットでの攻撃を題材に、人権問題の講演会もやっているという。

戸田議員の登場

 実は私が「若竹問題」を認識したのは戸田議員のおかげである。門真市議戸田ひさよしさんである。若竹さんと同じ地方議員の政策集団「虹と緑の500人リスト」に属している戸田ひさよしさんがそのメーリングリストに応援メールを送った。
 彼はそれをなんと他の左派掲示板にまで公開したのである。その掲示板は『赤色土竜党』である。
 それは「2ちゃんねらー」を「ファシスト気取り・差別自由主義者ども」ときめつけ、その対処法をアドバイスしたモノその謀略政治まるだしの、かつ大衆蔑視的な内容に当然その掲示板でも反発がうまれた。
 彼は若竹さんを擁護しておきながら「アホウ」などという差別語を使っていた。当然その場では「アホウ」なる言葉をめぐって非難が噴出した(これに対する反論が戸田さんから出されたのが12月になってから。それも居直りと一方的な議論の打ち切りというものであった。当然批判が集中した)。

 最もわけが分からないのが「なぜ手の内を見せるのか」ということである。マヌーバーもろだしの文章を公開したのだ。逆に若竹さんを窮地に貶めることに気づかなかったのだろうか?
 そして、その文章はとうとう『2ちゃんねる』にも転載され、戸田スレッドが立ち上がる。「2ちゃんねらー」たちは、すべて「差別自由主義者、ファシストかぶれ」と規定されてしまったのだからたまらない。若竹さんや戸田さんへの反発は、このメールの公開によりさらに増すことになり、『2ちゃんねる』での非難の書き込みがさらに増大した。

戸田掲示板への攻撃と理不尽な削除

 そして「2ちゃんねらー」たちは、今度は戸田さんの掲示板に押しかけていくことになった。しかし戸田さんとその「虹と緑」の盟友、志賀町議砂川次郎さん、さらに、「みどりのくつした」さんなるハンドルネームにより理不尽に罵倒され、削除攻撃が展開されたのである。
 それをいくつか紹介しよう。

 砂川さんはパンダというハンドルネームのネットワーカーに「パンダはこなくていいから動物園で、白を黒と言いくるめる練習してなさい。黒白反転しちゃったり」などと暴言を吐く。
 戸田さんも書き込みに参加した人々を「卑劣屋おたく蝿」などと侮辱していった。この他にも暴言ののち削除されたモノが多数あったあまりの削除により戸田さんの掲示板は、「もはや石ころしかころがっていない掲示板」といわれた。
 この事態にほかの「虹と緑」のメンバーも困ったようである。

 さらに戸田さんは、「虹と緑」のメーリングリスト・データベースからの自分の発言の引用に憤っていた。しかし実は、紛争ぼっ発初期にはそのメーリングリスト・データベースは「guest」で読むことができたのである。
 それを彼の掲示板で指摘した人間に対し、戸田さんは「うそつき」のひとことで削除してしまった。そもそも内部メーリングリストなど公開する必要などないと思うが見れたのだからしょうがない。
 それ以前に戸田さんは、メールの内容をさきの掲示板に自らさらしていたではないか。
 そして、さらに圧巻は「みどりのくつした」さんの差別発言である。「雑魚め。自分の名前で、個人で意見を言え。自分の名前も出せない人間は、インターネット旧世代だ。今では、普通の女の子だって、裸を見せてる時代だぜ。」「バカはバカで、僕のホームページの、カウンターでも、まわしとけ。バカも、これぐらいは役に立つだろう」。

 このような差別的な書き込みをしているのだ。これらの暴言は「2ちゃんねらー」が発したものではない。市議であり、町議であり、そのシンパである。なぜ攻撃されている若竹さんを擁護するのに、このような差別的になるのか全く理解できなかった。

ネットの匿名性は是か否か

 さて、その「みどりのくつした」さんも言っていたことであるが、世間ではインターネット世界の匿名性を問題にするむきがあるようだ。「匿名は卑怯だ」というわけだ。民衆は地域のコミュニティや血縁、または就労している勤務先や学校など、多くのしがらみにがんじがらめにされている。
 名前を出し発言し地域から村八分になったり、会社を解雇されてしまうことも多いのである。反原発や反天皇制などお上に逆らうことを実名で堂々ということは、公安警察にマークされる危険性もある。匿名であるから自分の主張を全面展開し、深化させることができる場合もあるのだ。
 さらにいい例が選挙である。投票は無記名であるからしがらみから自由になり自分に思う政党、人物に投票できるのである。議員であるからには、なおさらのことこれをしっかり胸に刻んでほしいものである。
 ネットの匿名性は、権力の圧力から自由になる方法でもあるのだ。もちろん差別・抑圧にも使われることがあるがこれについては後ほど展開しよう。

戸田さんのネットワーカーへの偏見

 さて戸田さんは、ネットワーカーへの偏見がかなりあるようである。
 彼の「なんでも掲示板」から独立した『自由論争掲示板』(http://treebbs.kze.ne.jp/hige-toda.html)では書き込みルールを明示してある。
 戸田さんはその中でいわゆる「パラサイト・シングル」を批判しているつもりなのだが、抑圧される青年層をともに闘う仲間としてみていない。

 「人権問題・労働問題ほか社会問題で闘ったこともなく、闘おうとも思っていない連中が、能書きばかりを発達させているにすぎない」「親のすねかじりでグダグダ言うだけのヤツ」や「根性なしサラリーマン」が「上司の言いなりにヘコヘコして奴隷残業していて、闘う勇気もないくせに」「パソコンに向かったときだけ夜郎自大になってエラソウな書き込みをしている」と、何の根拠もなく書きなぐっているのだ。これを偏見といわずしてなんといえるのであろうか?

 『マルチメディア共産趣味者連合』(URL:http://marukyo.cosm.co.jp/)というサイトがある。そこの掲示板に戸田さんがなぜか旧共産主労働者党(現グローカル)批判をはじめたのである。「転落ぶりにはガッカリしています」とのことである。
 場の空気が読めない、ルールに抵触する、それが反発を呼んだ。そして隔離板での論争へ誘導されたにもかかわらず逃げてしまったのだ。そして前出の左派掲示板にまた登場して言い訳をはじめた。
 戸田さんの言い分は、グローカルの人々を「ずっと友好的関係を保っている人たち」と規定しつつ、「これという足場もなく左派的市民運動にひっついているだけ」とこの世界中に公開されているインターネット上で陰口をたたいている、というわけなのだ。

 若竹さん防衛の謀略政治を書き込んだのもこの掲示板であった。相変わらず不用意で懲りない人である。
 これでは「ネットの敵対者」と規定されてもおかしくない。さらにまたもや「議員は多忙」を理由に逃亡してしまった。
 戸田さんはネットワーカーを批判していたが、もはや逆に多くのネットワーカーから、パソコンの前で気が強くなり人格が変わる、つまり夜郎自大になるのは実は戸田さんの方ではないかと思われてしまっているのである。

ネット上の草の根ファシズムの実態
 
 私もインターネットをはじめてから驚いたことであるが、以前より確実に反人権、差別・排外主義が露出してきたなと感じている。これは90年代に入ってからの「自由主義史観」や小林よしのりの影響であろう。露骨に外国人、とりわけ韓国人・朝鮮人、中国人を差別しナショナリズムを煽り、アジア太平洋戦争の正当性を説く歴史修正主義的な発言がネット上には跋扈している。
 さらには、この世の中にはこれほどまでに差別主義者が多かったのかと驚くほど「被差別部落民」に対する差別が書き込まれつづけている。民衆の中にある悪質な差別・排外主義的ホンネが表面に出てきている。

 もっとも、昔から社会で多いのは圧倒的に保守・反動の側であったはずである。しかしそれが言論として語られることは少なかった。これは「そと」で運動していても分からないことであった。
 日々対峙するのは、警察権力や街頭右翼だけであったりするのだからなおさらそう感じるのだろうか。
 現代社会がまるうつしになったかのごとく、ネット上でも右派のサイト・掲示板は圧倒的に多い。そして左派のサイトはそれにくらべて少なく、掲示板も設置していないところが多い(実は左派が活用しているのは、メーリングリストが多いのだが)。

 さらには左派の掲示板に対して、右派の荒らしや攻撃がつづき閉鎖される場合も少なくない。かくいう私も「そと」での右翼との衝突を端に発した多くの掲示板荒らしと右派「論客」による攻撃と闘わざるをえない状況に追い込まれた。
 ただし右派の側はネットで発言はするが「運動はしない」層がまだ多いようだ。「右翼ファシスト」の街頭への大量進出はまだまだのことであろう。

 インターネット、とりわけその匿名性は、彼らにも「言論の自由」を当然のごとく与えてしまった。私は「差別・抑圧の自由はない!」という立場であるが、彼らのこの動きはもう誰にも止められない状態であると思っている。可能なのは、まさにもぐら叩き的に、それもキチンと反論しながら撃つことしかないのだ。機能的に反撃しなければ、こちらが崩れてしまうのは明白である。

 もちろん、サイト上のルールを設定して違反者には削除、書込み禁止もありであろう。これはある意味サイト運営上のスキルである。
 暴言を吐き、削除攻撃をかけるのはインターネットという広く公開された「場」で敵をつくるだけなのである。さらにネット規制など、みずからの首をしめるようなことは言うべきではない。インターネットは使いようによって、有力な武器になるし多くの仲間を獲得できるのだから。そして、多くの人が自分の意見を表明できる場ができたことを否定すべきではない。

「虹と緑」はどこは行く

 さて「虹と緑」の仲間は、戸田さんや砂川さんの暴走を止めることができなかったのであろうか?
 それでは今回の騒動で一躍有名になった『虹と緑』のサイトにも目を向けてみよう。現在のところ「虹と緑」には、議員と若手インテリゲンちゃんしか参加していないようだ。市民活動家も入っていない。もちろん、最初から議員ネットワークなのだが、市民むけにはメンバーになるよりサポーターを募集していたようだ。そのサポーターに登録しただけでは、活動に制約があるらしい。政治的代行主義に陥る危険性を感じる。さすがに最近その募集は停止したらしい。
 ホームページを見る限り極めて閉鎖的に感じる。何を見るにもパスワードがないとは入れない。市民むけのサイトとは程遠いとしかいいようがない。「市民派」を名乗るサイトであるなら、情報を前面に出し、市民に開かれた掲示板をつくるべきだろう。またパスワードで制限された会員用の会議室などは隅に設置すべきだ。別に内部討論すべてを公開せよ、とは言わないが公開できるものとそうでないものを分けるべきなのだ。

 本来、地域の運動にとって議員など手段でしかない。もちろん彼ら彼女らは、地元の地域運動に担ぎ出された議員であろう。その議員が全国的なネットワークを形成するというのなら、運動の政策的相互性を高める場でなくてはならない。だがその運動が「虹と緑」を通じて、相互横断的に結びついているとはいえない。そして現場の運動(シングルイシュー)のネットワークは別にある。
 ここでは運動と議員活動の乖離が確実に存在しているのだ。党に市民運動局をつくって別個に運動を組織するつもりなのか?それよりグループ全体で運動するほうがはるかに政治的に「健全」ではないだろうか。

 問題はやはり「虹と緑」が議員グループであるということだ。運動圏はいちいち議員先生のサロンにつきあっていられない。さらに議会がはじまると「虹と緑」の活動が停滞してしまう。もっともよい形態は、市民及び市民運動を中心に議員の活動と有機的に結合したグループにすることである。そうすればおのずと市民が自発的に実務に参加するようになる。

 さらに「虹と緑は多様性を表す」そうである。関係者によると、「だからいろんな人がいるから制約できない」と言うのだ。
 政治的多様性とはマイノリティや「弱者」との共生・連帯の理念なのだ。「なんでもあり」ではない。そのように「虹と緑はなんでもありのグループです」といって誰が投票するのだろうか?
 要するに政策が打ち出せないのではないだろうか。政策情報センターと銘打っているが、そうなりえてないのではないか。残念なことである。
 なお戸田さん、砂川さんは「虹と緑」を脱退したとのことである。