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国際革命文庫  8

日本革命的共産主義者同盟
(JRCL)中央政治局編
国際革命文庫編集委員会訳

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電子化:TAMO2

「来たるべき対決」
ミシェル・パブロ

目次

来たるべき対決  ミシェル・パブロ

革命党の建設   国際執行委員会第10回総会―1952年―へ同志M・パブロにより提出された報告抜粋



「来たるべき対決」

    ミシェル・パブロ


1 帝国主義の衰退の新局面

 今日、社会革命が前進しつつあると主張することだけでは不十分であり、その具体的要素、原動力、そしてそれらの関係と展望を把握することが必要である。
 この社会革命は第一次世界大戦がつくり出した混乱に起因していると言う人々がいる。だが、このような人々は、第一次世界大戦の結果である社会的混乱自身が、資本主義制度の固有の、本質的な矛盾が生み出したものなのであるという事実を理解していないか、無視しようとしている。
 一九世紀末の均衡のとれた資本主義に復帰したいという時代錯誤の郷愁を抱く人々は、社会の発展がそのような「均衡」の条件を永久的に破壊してしまったということを知らないのである。彼らが懐かしがっている「均衡のとれた資本主義」を表現するには、次の言葉がふさわしい。「国家主権、恒久的戦争、力の均街の利用、列強集団の世界支配、そして自己の利害の自覚と力の脅威とによって強制された一時的な協定に基礎をおく体制」(1)。
 もちろんここではジャーナリストや政治学教授が好む「正確さ」が要求されているのではない。われわれは、科学的に、すなわちマルクス主義の概念にもとづいて理解しなければならない。すなわち、一九世紀末のこの体制は、産業資本主義の発展の最高の段階が、すでにその衰退の始まり、つまり帝国主義段階の開始と重なり合っている局面、生産の独占的集中、商品輸出にたいする資本輸出の優越、そして資本主義列強による全世界の勢力圏への分割の局面に対応するものであった。
 資本主義ヨーロッパは、この体制の拡大と均衡を保障する植民地的・半植民地的周辺地域をしたがえ、中央に君臨していた。しかし、そのヨーロッパ自身が、互いに敵対し合う複数の資本主義諸国家によって構成されていたという事実を捨象してはならない。
 最初の世界的な帝国主義的衝突をひき起したのは、世界の再分割のためのヨーロッパ諸列強間の闘争(第一に、イギリスとドイツとの闘争)であった。
 この衝突、すなわち第一次世界大戦は、資本主義ヨーロッパの歴史的運命を袋小路に追いこんだ。
 一九一八年から一九三九年までの間、ヨーロッパはまだ世界の工業生産の第一位を占め、アメリカ合衆国を超えていたが、すでに生産力は停滞し、帝国主義的膨脹は終焉し、植民地的基盤の収縮がはじまっていた(2)
 資本主義の空には二つの星が、すなわちアメリカ帝国主義の星と日本帝国主義の星がのぼりつつあった。アメリカ合衆国は、その巨大な国内市場とともに、戦争中にヨーロッパ諸国がアメリカにたいして負った情務を利用していた。日本帝国主義の方は、低賃金労働力と、それにもとづく安価な商品と大砲の威力で征服しようとしていた極東の巨大な市場に近接している彼らの位置を利用した。
 第三の勢力であるソ連邦は、一〇月革命によって地球の六分の一にあたる広大な地域を資本主義から奪取し、その国境の内部に新しい社会秩序をうちたて、巨大な力の基礎をきづいた。
 一九二九年から三三年にいたる大恐慌は、ヨーロッパのおしとどめがたい衰退をはやめた。一九三五年から狂乱のうちに着手された経済の軍事化も、ヨーロッパが危機から立ち直るための部分的な効果しか果さなかった。だがそれは、資本主義世界の全体とともにヨーロッパを一九三九年から四四年までつづいた第二次世界大戦の渦中に投じたのである。
 第二次世界大戦は、労働者国家ソ連邦をまき込んだ最初の帝国主義戦争であった。この戦争は、ソ連邦をふくめた世界の再分割を意図したものであった。
 しかしこの戦争は、第一次世界大戦が産出した結果を、いっそう拡大して再生産した。歴史がくりかえすという言葉は、ただ外面的で表面的な点での類似についてのみあてはまる。内容に関して言えば、たえず更新された新しい質の情勢を生み出すのである。
 第二次世界大戦は、資本主義体制の衰退の新しい局面を開き、一九一七年のロシア革命から出発した世界社会主義革命の力が、ますます決定的に、広大に発揮されることを可能にしたのである。

 第二次世界大戦がつくり出した構造的変動
 第二次世界大戦の終焉ののちに、世界が多くの側面で一九三九年以前の状況とは異なる新しい世界としてあることが明らかになった。
 資本主義体制は存続してはいるが、その均衡をたえず、ますます深く、永久的に破壊していく新しい条件のなかに置かれている。
 二つの社会体制は、数万キロに及ぶ国境を接して、力関係の不断の変動をもたらす日毎の小競り合いをくりかえしながら共存している。
 この地理的共存は決して「平和にみちた」ものではない。それは、両体制の対立する社会的性格にもとづいて、力による検証、現状の暴力的破壊、そしてどちらかが最後的に打倒されるところまでたどりつくような闘争に導ぴかれる傾向をもっている。おのおのの体制の内部危機、弱体化は、自動的に敵の陣営の強化に結びつく。
 資本主義体制の内部でも、その構成要素は戦前とくらべて構造的に変化した。二つの資本主義的中心である西ヨーロッパとアメリカ合衆国との間にも、また同時にこれら二つの中心と植民地・半植民地諸国との間にも、新しい関係が生れた。
 資本主義ヨーロッパはアメリカ合衆国にたいする工業的優越を失ない(3)、二つの戦争の間の時期に一時的に経験することができた相対的安定を新しく回復する基盤も喪失してしまった。原料を供給し、資本と商品を吸収することによって、ヨーロッパ資本主義経済活動の均衡を支えてきた植民地・半植民地地域は、すでに消滅してしまっているか、消滅の途上にあり、実際に資本投下が停止しているほどの不安定が支配している。農産物を提供し工業製品を消費して来た東ヨーロッパ諸国もまたソ連圏に合体され、「冷戦」はこの地域と西ヨーロッパとの貿易を途絶えさせた。アジアの市場は、あいつぐ革命によって新しい社会体制が樹立された諸国や、民族ブルジョアジーが権力をにぎった諸国(インド、セイロン、インドネシア)では、消滅した。また、アジア・アフリカの他の諸国でも、恒常的な不安定が支配して、帝国主義的利潤収奪の可能性を著じるしく減少させている(マラヤ、ベトナム、ビルマ、イラン、中東諸国、アフリカ植民地)。ラテン・アメリカでは、ヨーロッパの権益の多くはアメリカ帝国主義と土着ブルジョアジーの利益のために清算させられた。
 植民地・半植民地世界をゆるがしている巨大な解放運動は、すでにまずヨーロッパ資本主義をひざまづかせたのである。
 アメリカ合衆国にたいするヨーロッパの立場は、ますます深くなる一方の依存関係に変化した。新旧大陸の収支は、前者にとっては黒字であり、後者にとっては赤字であるような永久的構造になっている。第二次世界大戦の間に確立された新しい分業関係のもとでは、ヨーロッパの資本主義経済が多少とも正常な機能を果すために、アメリカの商品、資本、サービスにたいする需要は、不可欠な、縮少し得ないものとなっている。アメリカにとっては、ヨーロッパ製品の輸入はかならずしも死活の利害ではない。そしてヨーロッパの資力は、この不可欠なアメリカの商品の代価を支払うことができない。したがって、アメリカの永久的「援助」だけが、ドルが赤字になることを防ぐのである。そしてその「援助」の代償は、資本主義ヨーロッパをいっそうきびしくアメリカ帝国主義に従属させるための政治的譲歩という形で支払われる。
 かつてのイギリスのように、アメリカはいま現代資本主義世界の中心に位置し、その銀行と工場の機能をはたしている。だが、アメリカがこの最高の権力に到達した時期は、資本主義制度全体を救出するのにはすでに遅すぎる時期なのである。
 アメリカの巨大な上昇は、その広大な国内市場が与える可能性と、他の資本主義世界全体の窮乏が産み出す需要に刺激されて起った。とりわけ、二度にわたる帝国主義世界戦争が莫大な資産をもたらした。
 第二次世界大戦における特殊な位置のおかげで、アメリカは、一九二九年から三三年にいたる大恐慌によって受けた打撃を克服しただけではなく、生産機構の集中と生産力を驚嘆すべき水準にまで引上げた。戦争のための需要が、生産力のこの急激な発展をもたらしたのである。
 だが同時に世界においては、資本主義列強の均衡のとれた発展とは逆の方向に作用する条件が産み出されていた。アメリカがすでに保有している生産力を維持し、成長させるためには、無限の広大な地域、不断に膨脹することができる市場が必要である。
 国内市場はもはや充分ではない。その吸収力はアメリカ経済の生産力にたいしてつり合わないだけでなく、インフレーションに掘り崩されて減少をつづけている。
 世界市場への拡大の可能性を見てみよう。
 今日までは、商品と私的資本の輸出はアメリカ経済全体にとって相対的にちいさな役割をはたしてきた。
 当面それを大規模に行なうためには、イギリスが覇権を握っていた時代の世界を性格づけていた諸条件――帝国主義的拡大を受け入れる可能性をもっている巨大な植民地・半植民地の予備地域――に匹敵するものが必要であろう。だが、このような植民地・半植民地の予備地域は、この戦争そのものの結果として失われてしまった。
 こうして現在アメリカ帝国主義は、人工的市場――軍事費と「外国援助」――にその過剰生産力をながしこまざるを得なくされている(4)。アメリカ経済全体に占めるこの二つの活動分野の比重は、商品と私的資本の輸出をはるかに追いこして、戦争終結以来不断に増加しつつある(5)。
 アメリカ経済にたいするこのような調整機能をはたしているのは国家である。そしてこの事実そのものによって、アメリカ帝国主義は戦争の準備と他の資本主義諸国の勢力圏にたいする侵略的介入の道にふみ込んでいるのであり、そこから引き返すことができない。このような変則的な国家の役割は、資本主義制度全体の延命にとってはもはや遅すぎる時期に自分の力の絶頂に到達したアメリカ帝国主義が、過去においてイギリスやヨーロッパの資本主義がとることのできた拡大の手段を手にすることができない新しい国際的条件によって強制されたものである。それは、最後の帝国主義が、寄生的な、衰退と破壊の局面を歩む姿である。
 国内資源が個渇するにつれて、世界の原料資源を統制し、できれば独占することが、アメリカにとっての至上命令になっている(6)。
 「合衆国は自国の資源だけを消費しているのではないことを忘れてはならない」とA・ベヴァン氏は書いている(「恐怖にかえて」一五九頁)。彼はつけ加える。
 「それは人類全体のストックを消費している。」(7)。
 アメリカがこのような贅沢をゆるされているのは、他のすべての資本主義国にたいする圧倒的な財政的優位と、生産機構がもっている強力な力関係のおかげである。原料にたいするこの収奪がもたらす経済的政治的効果はきわめて大きい。全世界から原料を収奪し、集積することによって、アメリカは、原料の価格を統制するだけではなく、資本主義的生産全体の可能性をも統制しているのである。他の資本主義地域、ことにヨーロッパのアメリカへの依存は、こうした条件のもとでいっそう苛酷な結果を生むものとなる。
 イギリスと全スターリング地域の実例は、顕著である。この地域のドル収入はおもに四つの原料(錫・生ゴム・羊毛・ココア)の販売から生まれている。
 「購入量やその価格がアメリカの景気循環に左右されるために、スターリング地域が獲得するドルは二倍になったり三倍になったりする。」(8)
 朝鮮戦争がひき起したブームの時期には、イギリス圏の金・為替準備が急速に増大したので、イギリス政府は、マーシャル・プランによる援助を自らことわった。だが、原料相場の暴落によってまもなくこのようなドル収入は消滅し、そのあとイギリス経済に残されたのはインフレーションだけであった(9)。
 またアメリカは、さまざまな形態で、原料生産国である植民地・半植民地諸国への介入を増大させている。それらの形態は、旧支配者からの収奪や旧支配者との共同支配、さらに民族解放闘争にたいする直接的武力弾圧による赤裸々な領土征服の形態にまで及んでいる。
 (1) Sebastian Haffner, the Observer(11,mai 1952)
 (2) 両大戦間のアメリカの生産は、全ヨーロッパの四分の三にすぎなかった。
 (3) ヨーロッパの生産と比較したアメリカの生産は、一九三七年の七六%から一九四七年の一五一%に変化した。いまそれは、全ヨーロッパの生産とくらべて三分の一ほど多く、全世界の生産のほぼ半分を占めている。
 (4) 一九四四年以来三五〇億ドル。
 (5) アメリカの輸出が国内総生産に占める比率は一〇%を超えていない(一九四六年四・九%、一九四七年六・六%)。他方一九四六年〜四九年の私的資本輸出の平均はやっと六億ドルであり、マーシャル・プランの年間平均の五分の一、一九四七年までの軍事費(一五〇億ドル)の二五分の一である。
 (6) アメリカの対外「援助」は、アメリカの政治の性格と同様に決定的に「政治・軍事的」である。たとえば、西大西洋条約の政治・軍事的目標に集中されたマーシャル・プランの場合である。指導権がペンタゴンに握られている「ヨーロッパ軍」の場合も同様である。
 (7) 涸渇しつつある鉄、銅と鉛の不足。錫はほんのわずかしかない。戦略物資七四種のうち、アメリカはすでに四〇種を全部輸入している。またアメリカは、それ以外の原料の一〇%を消費している。
 (8) Raymond Aron, Le Figaro 2-3 ao^ut 1952.
 (9) A・ベヴァン氏は、再軍備を停止したと仮定する場合におけるこの依存がもたらすもう一つの具体的実例をあげている。ソビエトが支配しているブロックを除いた他の全ての世界は、アメリカ合衆国の経済によって席捲されてしまうだろう。
 「合衆国の生産能力の最近の巨人的な成長がその成果を見せる前にさえ、われわれはその意味をすでに知っていた。
 合衆国での雇用が四%低下しただけで、ヨーロッパに危機を生み出すには充分であった。国連が発表した最近の報告は、この危険をかなしげに強調している。同様な低下が再軍備についても起り、その結果同様な混乱が起ったとすれば、合衆国の外部世界のドル収入は三年間で一〇〇億ドル=総収入の四分の一だけ減少するだろう」。(「恐怖にかえて」一六三頁)


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