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ほりすすむの あめの国のものがたり
第二話 ペルセウス秘密同盟(1)

赤色土竜新聞第9号 2003.12.27

●ターレスはどこ?

 自動車専用道路は昨日よりも混んでいた。すこし時間がかかったけど工場前に着いた。工場の入り口前はたくさんの警察や報道の車が来ていて、消防車、救急車もあった。それからたくさん人が来ていた。警官や報道の人たちも多かったけど、工場の工員たち、それから、その家族らしい人たちも大勢いた。警察が入り口前をしゃだんしているので、工場の中には入れなかった。といっても、工場は、入り口の門と警備員のいる小屋があるだけで、その向こうの建物は消えてなくなっていた。きのうは確かにそこに建物があって、ぼくはその二階の窓際で食事をしたのに、今は何もない。ただ地面が広がっているだけだ。
 入り口の近くに人だかりがしていた。その中に分けいっていくと、人だかりの真ん中には工場の責任者らしい人がいて、それを囲んで工員やその家族たちがさかんに質問していた。ぼくはその人たちの中にターレスとヘーパイがいないかどうか探してみた。しかし彼らの姿はどこにも見えなかった。
 人だかりから抜けて、ぼくは教授のところに戻った。ぼくたちはしばらくのあいだ、そこにたたずんでいた。なぜこんな事が起こったんだろう。この工場はどうなるんだろう。ターレスたちはどうしたんだろう。だれに聞いたらわかるだろう…

 「おーい、すすむじゃないか。来てくれたのかい?」聞いたことのある声がした。ふりかえると、そこにヘーパイがいた。いっしょにいるのはヘーパイの家族かな?と思った。しかしそうじゃなかった。それはターレスの家族だった。奥さんと子どもたち。今度の休みにネズミーランドへ行く約束をしていたこどもたちだ。奥さんは泣いていた。そしてこどもたちは不安そうな顔をしていた。「うちの人が、夕べから帰って来てないんです。」と奥さんは言った。
 奥さんの話では、ターレスはきのうは残業することになったそうだ。それで遅くなるという電話があった。しかし、いつまでも帰ってこないのでおかしいと思っていたら、爆発事件のニュースが飛び込んできたのだ。それで奥さんは真夜中、車に乗って工場に向かった。ところが道路はたくさんの車で渋滞し、明け方になってやっと、ここにたどり着いたそうだ。そしてここでヘーパイに出会ったという。ヘーパイは残業がなかったので家に帰っていたけど、ターレスのことが心配になって工場に来たのだ。そして工場長が来たので工員の消息をたずねたが、工場長もどうしてこんなことがおきたのかわからず、首をかしげるばかりだった。ただ、工場長の話では、ゆうべ残業していたのは100人。その工員たちが、工場もろとも消えてしまったのだ。その中にターレスもいた。「工場長のはなしでは、消えた人たちは生きてるのか死んでるのかもわからないんですって。」そう言うと、奥さんはまた泣き出した。

●ペルセウス秘密同盟

 ぼくたちは奥さんをなぐさめ、あきらめないでターレスの帰りを待っててあげるようにと言った。でも、今はまだ事情がよくわからないので、なぐさめようもなかった。僕たちはヘーパイたちと別れて、教授の家へもどってきた。そしてソファーにくつろいだ。教授の奥さんがお茶を入れながらたずねた「ねえ、どうだったの? 工場はひどいの?」「うん。こんなひどい事件はいままで無かったが…」教授は、そう言って黙ってしまった。そして、なんだかむずかしい顔で考え事をしていた。
 ぼくは、ふと、思い出したことがあったので教授にたずねた。「ねえ教授。きのう僕がターレスたちのことをはなした時、ちょっと困ったような顔をしてたでしょう? どうしてですか?」「え? そうだったかい? うーん。まあ、あとで話してあげるから、ちょっとまってて。」教授はあいかわらずむずかしい顔をしていた。そしてしばらく考えごとをしてから、ようやく口をひらいた。「君、今日は時間あるかい?」
 「ええ。あるといえば、いくらでもありますけど。」…けど、本当はよくわからない。ぼくがもらったチケットは日帰りのはずなのに、もう一日過ぎている。だからチケットの有効期限は過ぎているはずだ。ぼくはちゃんと自分の世界に帰れるんだろうか? とても不安になってきた。でも、いますぐ帰ったらきっと後悔するにちがいない。いま帰るわけにはいかない。
 「じゃあ、午後になったら出かけるよ。車でちょっと遠いところに行くからね。」
 それはぼくには願ってもない事だった。いろいろなところをできるだけたくさん見ておきたいと思っていたから。

 お昼になると自動車工場爆破事件について、また新しいニュースが入ってきた。ミラ大統領が、この事件についての政府としての見解(けんかい)を発表したのだ。
 政府の見解によると、この爆破事件に使われた爆薬は「消滅爆弾」というもので、広い地域の人や動物や建物を一瞬にして消滅させる兵器なのだそうだ。その爆弾は一発で半径100メートル以内のものを全て消滅させることができる。そして何発もいっしょに爆発させれば、消滅の半径を何百メートルにも拡大させることができるという。こういうおそろしい兵器を政府は「大量破壊兵器」と呼んでいる。また、この犯行は「ペルセウス秘密同盟」という秘密組織がおこなったテロであることもわかった。ペルセウス秘密同盟は、砂の国とつながっていて、砂の国の指令によって秘密のうちに爆弾を砂の国からあめの国に運び込み、自動車工場を爆破させたのだ。そこで政府は、まず、この極悪非道(ごくあくひどう)な犯罪組織「ペルセウス秘密同盟」をたたきつぶし、関係者は全員逮捕することにしたという。
 大統領がテレビの向こうから直接叫んでいた。「みなさんの中で『ペルセウス秘密同盟』やそのメンバーの事を知っている人は警察に密告して下さい。お礼にお金をたくさんさしあげます。また砂の国に対しては、いま持っている『大量破壊兵器』をただちに全部差し出すように通告しました。もし通告に従わなければ、あめの国は砂の国に宣戦布告(せんせんふこく)し、報復戦争(ほうふくせんそう)をたたかうと宣言しました。犠牲となったわが国の100人の人たちのために、私は必ず復讐(ふくしゅう)を誓う。いと高きところに神の栄光あれ!地には平和、人には恵みあれ!」
 ニュースが終わるやいなや、教授は立ちあがった。「さあ、でかけよう。」ぼくは教授についていき、車に乗り込んだ。いったいどこにいくんだろう。ぼくは不安と期待とがいり混ざった不思議な感じがしていた。今から行くところは、工場爆破事件になにか関係あるんだろうか。教授は何も言わない。でも、とにかく教授を信じてついて行こう。


●地下へ続く階段

 ぼくは車窓(しゃそう)から、外の景色を眺めていた。車はしばらく走るとやがて郊外に出た。道は広いキャベツ畑がつづいた。やがて景色は牧草地へとかわった。遠くに何か動物が見える。ウシだろうか? 並んで見えるのはポプラの並木だろうか。それから畑にかわった。こんどはニンジン畑のようだ。どこまでも続く畑。ときどき民家が見える。畑で働く人。やがて遠くに町並みが見えてきた。大きな時計台とたくさんの建物。
 午後のやわらかい日差しの中で美しい景色を眺めているうちに、ぼくはなんだかねむくなってしまった。どのくらい時間がたっただろうか。うとうとしていると、車が止まるのを感じた。「着いたよ。」と教授は言った。
 僕たちが来たのはカノープス市という街だった。ケンタウロス市から200キロくらい西にある都市だ。車が止まったのはその街の中心街からはずれたダウンタウンだった。僕たちは車を降りるとしばらく歩いた。公園を抜け、古い建物が並んでいる通りに入った。その通りを抜けて角を曲がり、それから二つ目のせまい路地に入っていった。路地には空き地があって、空き地には古ぼけたレンガ造りの小屋が建っていた。
 「あれ? なんだか見たことがある。」ぼくはつぶやいた。教授はその小屋に入っていった。ぼくもそのあとをついていった。
 小屋にはだれもいなかったが、かべにとびらがあった。それをあけると、地下へ降りる階段が続いていた。階段の先は真っ暗で見えなかったが、教授はどんどん降りていった。ぼくもあとからついて降りていった。カツーン、カツーンという二人の靴音が暗闇にこだました。教授はポケットから小さな懐中電灯を取り出して足元を照らしながら、なおもずんずん降りてゆく。階段はずいぶん長く続いている。その長い長い階段をぼくたちは下りていった。
 階段は果てしなく続いているみたいに思われた。ぼくたちはどこまでもどこまでも下りていった。かなり歩いたあと、はるか下の方にかすかに明かりが見えてきた。降りるにしたがってその明かりは近づいてきた。階段を降りきったところに第二のとびらがあった。明かりはそれほど明るくない。とびらのすぐ上についていて、周囲をぼんやりと照らしていた。
 教授はとびらの前に立つと、あるリズムをもって四回ノックした。するととびらの向こうからは別のリズムで四回ノックする音が聞こえてきた。教授はとびらを開けた。

 とびらの向こうにはうすぐらい部屋があった。広さはよくわからないが、それほど広くはない。奥行きのある細長いへやだった。その部屋の真ん中に長いテーブルがあり、上からぶら下がっているライトに照らされていた。テーブルの周りには人が座っていた。10人くらいいたが、部屋がそれほど明るくないので、顔はぼんやりとしか見えない。教授と僕は入り口のそばの空いている席にすわった。そこで全員がたちあがっていっせいに呪文のようなことばをつぶやき始めた。
 「イン・テラ・パックス・オミニブス・ボネボルム・タティス」…ぼくにはこの言葉の意味はわからなかった。でもそれは不思議な抑揚とリズムをもっていて、まるで歌っているみたいだった。呪文が終わると一同は席についた。
 「きみがすすむ君だね。君のことは教授からきいている。」いちばん奥に座っている人が話しかけてきた。「はい。すすむです。初めまして。あの、ぼくは何も聞いていないんですが、これは何の集まりなんですか?」「ああ、それはすまなかったね。これから説明しよう。だけど、その前に約束してくれないかい。君がここへ来たこと、ここで見たこと、聞いたこと、私たちのことはいっさい人にしゃべってはいけない。」「え? どうしてそんな約束が必要なんですか? 何か悪い事を相談するのですか? それならぼくはそんな約束はできません。」「大丈夫だよ。君が思っているような事じゃない。信用してくれたまえ。それから君の安全は私たちが保証する。また君は自分の安全のためにも、ここであったことはしゃべらないほうがいい。」「わかりました。ぼくはあなたたちを知らないけど、教授を信頼します。だから約束します。ここで見たり聞いたりしたことは誰にもいいません。」
 「そうか。ありがとう。では自己紹介しよう。私はペルセウス秘密同盟の会長、リュネールだ。」

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