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ほりすすむの あめの国のものがたり
第二話 ペルセウス秘密同盟(2)

赤色土竜新聞第9号 2003.12.27

●工場破壊計画

 ほかの人たちの紹介はなかった。ペルセウス秘密同盟といえば、さっきテレビでミラ大統領がいっていた犯罪組織じゃないか! ぼくは約束した事を後悔した。
 「やっぱりうそだったんだな! あなたたちは自動車工場を破壊して100人も人を殺した犯罪者じゃないか!うそつき!」「まちたまえ、それはちがう。その100人は死んではいないよ。あとで説明しよう。まず落ち着いて、私たちの話をきいてくれないか。怒るのはそれからでもいいだろ?」ぼくは腕組みをしながらリュネールの説明をきくことにした。もし僕をだますつもりなら、ぼくはさっきの約束をやぶるするつもりだった。こんな人たちははやく警察に捕まったほうがいい。
 「君は私たちがあの工場を爆破したと思っているね。」「え? ちがうんですか?」「ちがうとも。われわれは自動車工場を爆破するつもりなどまったくない。いったい何のためにあそこを破壊する必要があるんだね?」「それは……わかりません。でもテレビで大統領がそう言っていました。」「われわれが破壊しようとしていたのは隣の軍事工場だよ。あそこは工場が集中しているが、大半が軍事工場だ。アンタレス兵器製造会社、ペガスス航空機製造、ノートゥンク武器工場、アルゴル爆薬製造工場、ウォータールー軍事工業、ミラ戦車工業など、あめの国の主要な軍事工場があそこにある。あそこは、あめの国軍事産業のいわば心臓部なんだよ。平和のためには、あんなものはないほうがいい。」
 「じゃあ、なぜ自動車工場が破壊されたんですか? やったのは誰? あなたたちに関係ないんですか?」「われわれは、ずいぶん前から、軍事工場の破壊を計画していた。そのために先週、アルゴル社に潜入して消滅爆弾をたくさん盗み出した。その爆弾を使って工場を消滅させようとしてね。」「ほら! やっぱり破壊するつもりだったんじゃないか。ちがう工場でも犠牲者が出るのは同じでしょう?」「まあ待ちたまえ。このところ、あめの国は景気があまり良くないから、残業なんて無いし、とくに軍事工場は夜になると数名の警備員以外には誰もいなくなるんだよ。あとはコンピューターに連動した監視体制に任される。私たちは犠牲を出すつもりはないから、爆破する時には警備員を退去させるつもりだったんだ。しかし、どうも様子がおかしいんだよ。」
 「おかしいって、どこが?」「まず、あまりにも簡単に爆弾を盗み出せたことだ。軍事工場はどこも厳重に警戒されていて、簡単には入り込めないようになっているんだが、われわれは比較的簡単に侵入し、そして爆弾を盗み出すことに成功した。そればかりじゃない。強力な爆弾が盗まれたと知ったら普通は大騒ぎになるはずだろう? 新聞やテレビでも大きく報道されるはずだ。しかし、なにも報道されなかったんだ。まるで何も盗まれていないかのように。」
 「それは変ですね。盗まれた事を知らないんでしょうか?」「そんなはずはないよ。例え拳銃が1丁なくなったって大騒ぎになるはずだよ。まして、あんな危険なものだ。常に厳重に管理されているはずだから知らないはずはない。」「そうか。そうですね。」「それから、われわれは盗み出した爆弾を、今度は工場を破壊するために持ち込もうとした。ところが、今度はどの兵器工場も警戒が厳重で、持ち込むことがどうしてもできなかったんだよ。それで、どうもおかしい、と我々も気づいた。これは『わな』なんじゃないかってね。我々に爆弾を盗み出させておいて、誰かがなにか事件を起こす。そしてそれを我々のせいにする、という計画があるんじゃないかと。それで、我々は密かに情報を集めてみた。私たちにはたくさん仲間や協力者がいるからね。そしたら、驚くべき事実が判明した。実は、あの自動車工場は、外国に移転する計画がすすんでいるんだよ。」

●わな

 あ!そうだったのか。ターレスは会社が工員の給料を節約するために給料の安い外国に工場を移転するかもしれないと言っていた。そうか。計画はもうそんなに具体的になっていたのか!
 「そればかりじゃない。工場を移転した跡地をとなりのアルゴル社が買い取る契約がすでに結ばれているんだ。」「会社は工場の移転計画を社員に言ってないんですか?」「そうだ。社員たちは何も知らない。」「そんな! それってひどいな。そんな大事なことを黙ってて、ある日突然『移転するから首にします』なんて言ったら、社員たち、みんな怒っちゃいますよ。そういうだいじなことを会社は社員に伝える義務があるんじゃないんですか? だって、仕事がなくなったら生活に困っちゃうもの。」「そうだ。そのとおりだ。社員に黙ってそんなことをしたら社員は会社側と大げんかするだろうな。ストライキやデモをやって徹底的にたたかうだろうよ。でも、もしそれが『過激派のテロ』のせいだったら?」

 「あっ!」ぼくは、そのとき自分の心臓がドキンと鳴るのを感じた。もし大統領がテレビで言ってたとおり、これがペルセウス秘密同盟のしわざだったら、「会社も被害者」だと思って工員たちも会社に同情するだろう。そして「しかたがない」と思って首切り反対運動をあきらめるかもしれない。だからアルデバラン社にとっては「ペルセウス秘密同盟によって爆破された」ほうが都合がいいんだ。そうなのか。なんて巧妙な計画なんだろう。
 「おそらく、われわれの仲間が爆弾を盗みに侵入した時、我々は写真に撮られていただろう。あとで『証拠写真』に使えるからね。それに、会社はさらに巧妙な手段を使ったかもしれない。」
 「え?それはどんなことですか?」
 「この際、会社の移転にあくまでも反対しそうなじゃま者もいっしょに片づけたのかも知れない、という事さ。いいかい、いま景気が悪いこの時期、会社は給料を節約するために、社員の人数を半分にしてしまったんだよ。その理由は自動車があまり売れないので仕事が少ないからさ。残業させるほどの仕事はないんだ。自動車工場の仲間からの情報では、ここ一年ものあいだ、残業なんてなかったそうだ。それがなぜきのうにかぎって100人もの工員を残業させたと思う? その人たちは会社にとってじゃまだから、という事になるんじゃないかい? 消えてしまった100人の名簿を調べればそれがはっきりするだろう。それがもしも会社に反抗しそうな工員ばかりだったら、これは会社がわざとやったんだと言っていいと思う。」
 「そんなひどいことを会社はやるんですか? いくら何でもそんなひどいこと…。証拠は?」
 「証拠はまだない。だが、残業者を指名したのは会社だし、爆破したのが我々ではなく会社だとしたら、そうなるだろう?」
 「そうなりますね。うーん。」
 「それから、この事件はアルデバラン社だけではない。おそらくミラ大統領も関係しているよ。」
 「え? 大統領が?」ぼくはますます驚くばかりだった。

●兵器産業シンジケート

 リュネールは地図を広げた。それはアルデバラン自動車工場周辺の工業地帯の地図だった。
「いいかい、ここが自動車工場だ。となりがアルゴル爆薬製造工場、それからここがミラ戦車製造工業、ペガスス航空機、ノートゥンク、ウォータールー。この中で、ミラ社とアルゴル社はミラ大統領の会社だ。大統領はいくつも会社を持つ大金持ちだが、特に兵器産業に力をいれている。アンタレス兵器製造は大統領補佐官の会社だし、ノートゥンクは副大統領の会社、ペガスス社は国務長官の会社だ。他にも、このあたりにある兵器産業の会社の大部分は大統領の側近(そっきん)やその関係者が社長や役員になっているんだよ。これをどう思うかね?」
「え? どう思うかって…よくわかりません。」「では聞き方を変えよう。もし君が、例えばケーキ屋さんをやっていたとする。そしてそのケーキ屋さんのままで君が大統領になったとするね。君がもし、大統領の地位を利用してお金もうけをしようと思ったら、どうするかね? もちろん、地位を利用したお金儲けは、本当はいけない行為なんだけどね。」
 すこし考えてから、ぼくは答えた。「うーん、……それなら、政府の予算でうちのケーキをたくさん買ってもらって、政府の職員がよく使うレストランや喫茶店で出すようにします。」「そうだね。自分の店の商品を政府に買わせることだ。それだよ。ミラ大統領はそれと全く同じことをやっているんだ。大統領と大統領の側近(そっきん)たちが経営する兵器会社の戦車や爆弾、飛行機、その他あらゆる兵器を大統領はあめの国政府に大量に買わせている。」
 「だけど、兵器って、使わないものをたくさん買っても意味がないでしょう?『ムダな買い物だ』って議会とかで文句言われるんじゃないですか?」「そのとおり。確かに使わないものをたくさん買っても無駄だね。じゃあ、使えばいいんじゃないか? たとえば我が国の自動車工場が攻撃されて、その攻撃が砂の国から命令されたものだということになったら?」「そうなったら、砂の国を攻撃しますね。……あっ、そうか! 武器をたくさん売るためには戦争をすればいいんだ。」「そう。あめの国が戦争をすればするほど大統領の会社が儲かるしくみになっている。だから、戦争をするつもりがない国にだって因縁(いんねん)をつけて、相手を攻撃する。そうすれば軍事予算はどんどんふくれあがり、兵器が売れて大統領はどんどん儲かる。いまやあめの国の政府が使う軍事予算は、世界中のどの国よりも多いんだよ。世界で二番目の軍事大国はシロクマ国だが、あめの国はシロクマ国の7倍も軍事予算を使っているんだ。我々は、大統領たちを『兵器産業シンジケート』と呼んでいる。」
 「でもまだ砂の国と戦争するって決まったわけじゃないんでしょう? 大統領は『隠している大量破壊兵器を出せ』と言ってるんだから、それを差し出せば戦争にはならないんじゃないの?」
 「砂の国はまだ工業技術がおくれているから、消滅爆弾のような高度の技術が必要な兵器なんか造れっこないよ。だからそんな爆弾を持ってるはずがないんだ。だから『出せ』と言われても無いものは出せない。でもミラ大統領は『出さないのは隠しているからだ』と決め付けてかならず攻撃する。きっと戦争になるよ。見ていてごらん。」


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