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なお、このテキストはTAMO2さんのご厚意により「国際共産趣味ネット」所蔵のデジタルテキストをHTML化したものであり、日本におけるその権利は大月書店にあります。現在、マルクス主義をはじめとする経済学の古典の文章は愛媛大学赤間道夫氏が主宰するDVP(Digital
Volunteer Project)というボランティアによって精力的に電子化されており、TAMO2さんも当ボランティアのメンバーです。 http://www.cpm.ll.ehime-u.ac.jp/AkamacHomePage/DVProject/DVProjectJ.html http://www5.big.or.jp/~jinmink/TAMO2/DT/index.html |
☆ 四 〔需要と供給〕
わがウェストン君は、反復は学問の母である repetitio est mater studiorum というラテン語の諺(コトワザ)を信じきり、そのため彼は、自分のもとのドグマをまたもや新しいかたちでくりかえし、賃金引上げの結果生じる通貨の逼迫(ヒッパク)は資本の減少をまねくだろう、などと言っている。通貨にかんする彼の奇妙な考えはもうかたづけたのだから、彼が通貨にかんして自分の想像にえがいた難関から生じると思いこんでいる想像上の諸結果にたちいることは、私はまったく無用なことだと考える。私は、さっそく、彼があんなに多くのちがったかたちをとってくりかえしている一つの同じドグマを、もっとも簡単な理論にまとめあげる仕事にとりかかろう。
彼の主題のとりあつかいかたがどんなに無批判的であるかは、ひとつだけ指摘すれば明らかになろう。彼は賃上げにたいして、または賃上げの結果としての高賃金にたいして、反対論をとなえる。では、おききしよう。高賃金とはなにか、また低賃金とはなにか? と。たとえば、なぜ週五シリングでは低賃金となり、週二〇シリングでは高賃金となるのか?
五が二〇にくらべて低いなら、二〇は二〇〇にくらべるともっともっと低い。だれかが寒暖計について講義することになって、いきなり温度の高い低いについて熱弁をふるいはじめるとしたら、彼はひとになんの知識もさずけはしないであろう。彼は、氷点の見つけかた、沸点の見つけかた、またこれらの基準点が、寒暖計の販売人や製造業者の気まぐれによってではなく、自然法則によって決められるしだいをまず私に話すべきである。ところが賃金と利潤については、ウェストン君は、こうした基準点を経済法則からひきだすことに失敗しただけでなく、基準点をさがしてみる必要を感じさえもしなかった。賃金は、その大きさを測定するひとつの基準とくらべてみてはじめて高いとか低いとかいえるものであることはわかりきったことであるにもかかわらず、彼は、高い低いという卑俗な言いかたをなにか決まった意味をもつものとしてうけいれて満足したのである。
なぜ一定量の労働にたいして一定額の貨幣があたえられるのかを、彼は私に話すことはできないであろう。もし彼が私に答えて「それは需要と供給の法則によって決定される」と言うとすれば、まずもって私は彼にこう尋ねよう。需要供給そのものはどんな法則によって規制されるのか? と。まったくのところ、そんな彼の答えはすぐさま一笑に付されるだろう。労働の需要と供給の関係はたえず変動にさらされ、それにつれて労働の市場価格もたえず変動にさらされる。需要が供給をこえると賃金は上がり、供給が需要をこえると賃金は下がる。もっとも、そういうばあいには、たとえばストライキなりなにかべつな方法なりで需要供給の実状をためしてみる必要があるかもしれない。だが、もし諸君が需要供給は賃金を規制する法則であると認めるなら、賃上げを否認することは、児戯にひとしいことでもあれば、無益なことでもあろう。というのは、諸君がたのみにする至上法則によると、賃金が周期的に上がることは、賃金が周期的に下がることとまったく同じように、必然的で当然なことだからである。もし諸君が需要供給は賃金を規制する法則であると認めないのであれば、私はもう一度質問をくりかえす。なぜ一定量の労働にたいして一定額の貨幣が与えられるのか? と。
しかし、ことをもっとひろく考えてみよう。もし諸君が、労働にせよほかのどんな商品にせよ、それの価値は結局のところ需要供給によって決定されると思うとすれば、それはまったくのまちがいであろう。需要供給は、市場価格の一時的な変動を規制するものでしかない。需要供給は、ある商品の市場価格がなぜその価値以上に上がったり価値以下に下がったりするかは明らかにするだろうが、この価値そのものを説明することはけっしてできない。かりに需要と供給がつりあうもの、あるいは経済学者が言うように、相殺しあうものとしよう。もちろん、これらのあい反する力がひとしくなるその瞬間に、これらの力はたがいに中和しあって、どちらの方向にもはたらかなくなる。需要と供給がたがいにつりあい、したがって作用しなくなる瞬間には、ある商品の市場価格はそれの真実価値と、つまりその市場価格がそれをめぐって振動する基準価格と、一致する。だから、この価値の性質を研究するにあたっては、市場価格に及ぼす需要供給の一時的な影響は、われわれにはまったく用がないのである。これと同じことは、賃金についても、ほかのすべての商品の価格についても、あてはまる。
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